| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-231 (Poster presentation)
多くの被子植物は自己花粉による受精を防ぐ自家不和合性と呼ばれる仕組みをもつ。自家不和合性は近交弱勢を避ける利点を持つ一方で、その機構を失い自殖を行うことは遺伝子の伝達効率の高さや交配相手が少ない環境でも繁殖を保証できる点で有利であり、多様な系統において集団サイズの変化に関連して自家和合性の進化が起きたことが報告されている。アブラナ科植物の自家不和合性は雌側特異性遺伝子S-LOCUS RECEPTOR KINASE(SRK)と雄側特異性遺伝子S-LOCUS CYSTEINE-RICH PROTEIN(SCR)に規定される。特異的なSRKとSCRの組み合わせが強く連鎖したS対立遺伝子が多数存在し、自己花粉の受粉の際には同一のS対立遺伝子に由来するSRKとSCRの相互作用が花粉発芽の阻害を引き起こす。ハクサンハタザオArabidopsis halleri subsp. gemmiferaは日本全国に分布するアブラナ科植物であり、日本列島への移入に伴い集団サイズの減少を経験したと推定されている。本種の自家不和合性は局所集団を用いて研究されてきたが、日本全体でのS対立遺伝子の多様性や集団動態との関連については十分に解析されていなかった。本研究では、日本における本種の自家不和合性進化の解明を目的とし、141野生系統を用いてS遺伝子座の配列を比較解析した。その結果、日本列島の集団ではS対立遺伝子の多様性が減少しており、過去の集団サイズ変化との関連が示唆された。また、複数の系統でS対立遺伝子に変異がみられたほか、一部の集団では自家和合性や花弁の小型化が確認され、日本各地で散発的に自家和合性が進化したことが示唆された。今後は自家和合性に関連したS対立遺伝子の機能や野外における自殖率の解析を行い、自家和合性の進化過程を明らかにする予定である。