| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-234 (Poster presentation)
社会性昆虫は血縁個体が集合したコロニーを生活史の単位とし、コロニー全体として統制の取れた利他行動に基づく社会システムを構築する。しかしながら、個体の利益とコロニー全体の生産性は必ずしも一致せず、個体間の利害対立で生じる利己的形質がコロニーの生産性を低下させる場合がある。このように個体とコロニーという二つの階層の間で異なる選択圧が働く条件において、それぞれの階層の持つ形質の進化的な相互作用の動態やその帰結に関する普遍的な理解は得られていない。本研究では、利己的形質とコロニー寿命の関係性に着目し、社会性昆虫のシロアリにおける生殖虫のポジション争いに伴う利己的形質を題材とした理論的解析を行った。Adaptive dynamicsモデルおよび個体ベースモデルを用いた解析から、個体の利己性は個体レベルの利益とコロニーレベルの生産性のバランスの下で特定の強度に収束することが示された。特に、コロニー寿命が長い条件においては個体レベルの利益の効果が強く作用し、利己的な形質が進化しやすくなる。このような利己的形質による生産性の低下を考慮してコロニー適応度を計算すると、コロニー寿命の延長による適応度の増大が頭打ちになるという結果が得られた。この結果は、利己的形質の進化によって寿命を上昇させる進化が阻害される可能性を示唆し、コロニーレベルの形質(寿命)と個体レベルの利己的形質の関連性を浮き彫りにするものである。これらの結果をもとに、コロニー寿命と利己的形質の進化的な相互作用について、両者を同時に進化させた個体ベースモデルの結果と併せて議論する。