| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-235 (Poster presentation)
琉球列島の島々に広く分布するシロオビアゲハPapilio polytesには一部のメスだけに毒蝶のベニモンアゲハPachliopta aristolochiae(以下、モデル)の翅斑紋に似た表現型を示すベイツ擬態(以下、ミミック)が見られる。近年、南方から移入してきたモデルの定着によりミミックの翅斑紋がモデルに似るように急速に進化がおこり、モデルの定着時期が早く存在比も高い地域では翅の白斑サイズが他の地域より大きくなっており、モデルにより良く似ていることが明らかになっている(Katoh et al., 2017)。我々のこれまでの研究でミミックにはモデルの翅の模様だけではなく形状の模倣も進化している可能性が示された。モデルの定着状況を反映し、翅形状においてもミミックは急速な形態分化を起こしている可能性が考えられる。そこで本研究ではモデルの定着時期や存在比の異なる喜界島、沖縄島、宮古島、石垣島の4つの島間で翅形状を比較する事で島間の形態分化の可能性を検討した。
その結果、最もモデルの定着が早くモデルの存在比が高い石垣島集団の翅形状が最もモデルに近かった。しかし、我々の予想に反してモデルが定着していない喜界島集団の翅形状が、すでにモデルが定着している沖縄島集団よりもモデルに近い形状をしていることが示唆された。ミトコンドリアDNAを基に推定された系統樹によると喜界島集団の方が沖縄島集団よりも宮古島、石垣島に近いという(Tsurui-Sato et al., 2019)。以上から翅形状においては白斑のようなモデル定着を起点とした迅速な進化だけでなく遺伝的浮動も重要である可能性が考えられた。