| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-236  (Poster presentation)

ヒタキ科における巣材選択行動と繁殖地の進化【A】【O】
Evolution of nest material selection behavior and breeding areas in Muscicapidae【A】【O】

*田上結大(愛媛大院理工), 今田弓女(京大院理)
*Yudai TANOUE(Ehime Univ.), Yume IMADA(Kyoto Univ.)

スズメ目は現生鳥類のなかで最大の分類群であり,世界中に広く分布している.その多様化要因として,様々な環境に営巣できる高度な営巣能力の獲得が挙げられている.スズメ目は様々な材料を利用して巣を作るが,種によって特定の材料に対する好みがある.このように,スズメ目の多様化と分布形成には巣材が関連する可能性があるが,それを調べた研究は少ない.本研究では,旧世界を中心に幅広い気候帯に生息するヒタキ科を対象に,鳥類のデータベースを活用した系統比較法の解析によって,巣の特性と繁殖分布範囲の進化史を推定し,巣材と乾燥環境での繁殖の進化の関連について検証した.まず,巣材と繁殖分布範囲の祖先形質復元の結果,ヒタキ科の最も近い共通祖先は,巣材にコケを利用し,草本を利用しないという状態から,草本を利用するという進化が複数の大きなクレードで生じていた.そうした巣材の変化がアフリカ区への分布の局限とそこでの多様化が生じたクレードと符合することが示唆された.そこで,アフリカ区には広大な乾燥環境があることに着目した解析を行った.系統学的一般化線型混合モデル(GLMM)を用いて,巣に関する一連の形質と乾燥帯での繁殖の有無の相関を調べた結果,乾燥環境での繁殖には巣材が大きく影響していることが示された.また,乾燥環境での繁殖の有無と巣材利用(コケ,草本,枝,根,葉)の有無の相関進化解析の結果,草本のみで相関進化が検出された.さらに,形質状態間の遷移率に基づく解析から,草本を利用する行動は乾燥環境への進出に先立って生じたことが支持された.本研究は,スズメ目の適応放散と分布の形成に寄与した要因として従来ほとんど注目されていなかった巣材の役割を強調する成果といえる.


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