| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-001 (Poster presentation)
世界各地でシカ類の過採食により、植生に深刻な被害が起きており、対策としてシカ排除柵(以下、シカ柵)を設置することで下層植生の回復が図られている。植生回復は植食性、捕食性昆虫など異なる栄養段階の昆虫群集に影響することが考えられるが、種数・個体数・季節発生消長の面から複数栄養段階の昆虫群集を評価した研究は乏しい。チョウ・トンボは共に生息環境の変化に敏感で、指標生物や生物モニタリングの対象などになっている。そこで本研究ではチョウ・トンボに注目し、2年間を通してシカ柵内外における種数と個体数を記録することで植生回復の影響を評価した。京都大学芦生研究林において、2023・2024年4月~11月に可能な限り毎週、シカ柵の内と外でチョウ・トンボの成虫を対象に標識再捕獲調査を行った。その結果、チョウは両年とも、柵内で日あたりの種数・個体数が多く、Shannonの多様度指数が高かった。また、年によって季節ごとの種組成が異なった。トンボは、2023年は日あたりの種数・個体数が柵内で多く、2024年は日あたりの個体数が柵内で多かった。しかし、2024年の種数、両年の多様度指数ともにシカ柵内外で有意差は見られなかった。また、両年の柵内外でどちらも春から夏にかけてアサヒナカワトンボが、夏から秋にかけてアキアカネが優占した。まとめると、シカ柵設置により個体数はチョウ・トンボともに増加し、種数と多様度指数についてチョウは増加したがトンボでは差が見られなかった(23年の種数は除く)。トンボでは、2年間を通して柵内外どちらも特定の種が縄張りを獲得したことによって、柵内外で種数の差が見られなかった可能性がある。以上より、柵設置はシカ食害に対するチョウやトンボの保全において有効な手段であること、一方植生回復が昆虫の多様性に与える影響は栄養段階や生活史戦略によって異なることが示唆された。