| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-002  (Poster presentation)

シカ過採食によるササの消失が土壌微生物相に与える影響【O】【S】
The impact of the disappearance of sasa bamboo due to overgrazing by deer on the soil microbiome.【O】【S】

*松岡俊将(京都大学), 杉山賢子(京都大学), 伊藤公一(同志社大学), 平田有加(芦生ササクエルカス), 福本繁(芦生ササクエルカス), 林大輔(京都大学, 芦生ササクエルカス), 徳地直子(京都大学, 芦生ササクエルカス)
*Shunsuke MATSUOKA(Kyoto Univ.), YORIKO SHGIYAMA(Kyoto Univ.), Koichi ITO(Doshisha Univ.), Yuka HIRATA(Ashiu SasaQuercus), Shigeru FUKUMOTO(Ashiu SasaQuercus), Daisuke HAYASHI(Kyoto Univ., Ashiu SasaQuercus), Naoko TOKUCHI(Kyoto Univ., Ashiu SasaQuercus)

近年、シカの過採食によって、下層植生の衰退と、それに伴う生物多様性の低下や生態系機能の変化が進行している。これに対し、柵の設置によってシカを排除することで、植生や生態系機能の保全や回復が行われている。しかし、従来のシカ排除柵を用いた研究では、調査対象の生物分類群は植物に限られていることが多い。土壌中の細菌や菌類といった土壌微生物の群集構造(種数や種組成)は、植生との関連が強いことが繰り返し報告されているが、植生衰退によって群集にどのような変化が生じるのかを報告した例は限られている。本研究の目的は、シカ過採食による植生衰退が微生物群集構造をどのように変化させるのかを評価することである。
本研究は京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林で行った。研究林東部の林床にチシマザサが優占する林分では、植生保全のボランディア団体(芦生ササクエルカス)によって、ササの保全が行われている。同団体によって、2016年に尾根部(約300mほどの範囲)に1.5m四方の小規模柵が8基設置された。2022年10月、この8基の柵の内外において、それぞれ土壌(リター層を除く表層5センチメートル)を採集した。土壌からキットを用いてDNAを抽出し、アンプリコンシーケンスにより、細菌16S領域と菌類ITS1領域の配列を決定した。得られた配列はシーケンスによるエラーを除去することでASVにまとめた。各ASVについて、データベースと比較することで、分類群の推定を行った。
その結果、細菌は2468 ASV、菌類は1424 ASVが検出された。ASVの数を柵内外で比較すると、細菌では有意差が見られなかったが、菌類では柵内で有意に高かった。ASV組成は細菌と真菌のどちらも柵内外で有意に異なっていた。さらに、柵内でのみ有意に高頻度で出現する分類群も認められた。以上より、シカ過採食によるササの消失により、特定の微生物も減少すること、また一部はターンオーバーによって群集組成が変化する可能性が示された。


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