| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-003 (Poster presentation)
九州南部のブナ群生地では長期的なシカの植生採食により、土壌侵食が生じ、根の露出にともないブナの肥大成長が低下している。年輪コアを用いた同位体分析から、根系露出により、水の可吸性が低下したことでブナの肥大成長低下につながったと考えらえているが、実際に樹木の地上部生理機能が水分ストレス等により低下しているのかは分かっていない。本研究では九州大学宮崎演習林内の三方岳頂上付近にて同所的に生育するブナ成木を対象に、1980~2020年の年輪解析による肥大成長率の時系列変化、葉の形態特性、生理特性について、根系露出群(2022年調査)と根系露出のない対照群(2024年調査)を比較して、根系露出が樹木に与える影響を調査した。加えて根系露出群の根元をリター被覆した根系被覆群(2024年調査)を設定し、林床被覆により、樹木が回復するのかを調査した。
シカの植生採食開始以降は、根系露出群・対照群共に樹木の相対成長率は増加から減少に転じていたが、根系露出群でより低下していた。また、根系露出群の個葉は対照群より葉面積を小さくすることで、より高い葉面積あたりの乾重量(LMA)をとった。水分ストレスに対して浸透圧調節機能で順応していたものの、クロロフィル量や光合成の量子収率は対照群より低い傾向にあった。
根系被覆群は、光合成機能は被覆前と変化はなく、葉生産量も対照群より小さかったが、葉面積が被覆前より大きくなりLMAが対照群と近い値となった。また水分ストレスに対する順応も対照群と近いものになった。一方で葉は乾燥しており、葉面吸水量は対照群より多かった。
根系露出は水分ストレスを発生させ、樹木の生理機能を低下させ、樹木の成長を低下させることが確認された。また露出した根系のリター被覆により葉の形態や水分生理特性は対照群に近づいたが、光合成機能はいまだ回復していないことが分かった。被覆して2年と間もないため、今後も経過を見る必要がある。