| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-004  (Poster presentation)

シカによる下層植生の消失が土壌動物に与える影響 -九州ブナ林と山陰ブナ林の比較-【O】【S】
Effects of deer-induced understory degradation on soil mesofauna community in beech forests: comparison between Kyushu and San-in【O】【S】

*川上えりか, 菱拓雄, 片山歩美(九州大学)
*Erika KAWAKAMI, Takuo HISHI, Ayumi KATAYAMA(Kyushu Univ.)

 近年、個体数の増加したシカの食害により、下層植生が消失し、土壌が露出した天然林が全国各地で確認されている。下層植生は土壌保全効果を持つため、その消失は土壌動物群集の変化を介して土壌生態系機能を劣化させることが懸念される。実際に一部地域では、これらの動物や機能の劣化が報告されているが、土壌動物群集に影響を与えうる気候条件(降水や積雪量)の違いなどを含めて広域評価した事例はない。そこで本研究では、気候条件の異なる九州地方と山陰地方のブナ林各3サイト(計6サイト)を対象に、シカによる下層植生の消失が土壌動物群集に与える影響を明らかにすることを目的とした。各サイト内で下層植生としてササが残存している土壌9地点、完全に消失した土壌9地点を対象に、2024年10月から11月にかけて中型土壌動物の採取を行った。採取後、ツルグレン装置で抽出を行い、トビムシとダニ、その他の中型土壌動物に分けて個体数計測を行った。同時期に、採取地点の土壌で地表面温度、土壌含水率、土壌硬度、土壌炭素・窒素濃度、土壌CN比、A0層重量、容積重、pHを調査した。
 九州ブナ林では、ササ残存地点と比べてササ消失地点においてトビムシ、ダニ、また全中型土壌動物の総個体数が有意に少なかった。一方で、山陰ブナ林では、下層植生の有無による個体数の違いは見られなかった。また、いずれの地域でも、ササ残存地点と比べてササ消失地点において容積重が高かった。全サイトを通じて中型土壌動物の個体数は容積重と有意な負の相関が、A0層重量、土壌炭素濃度と有意な正の相関が得られた。特に容積重は九州ブナ林、山陰ブナ林のいずれにおいても中型土壌動物個体数と有意な負の相関関係にあった。これらの結果は、下層植生の消失に伴うリターや土壌の流亡が、容積重の増加に伴う土壌物理構造の変化や資源量の減少をもたらし、土壌動物の個体数を減少させている可能性を示唆した。


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