| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-005 (Poster presentation)
1980年代以降、ニホンジカ(Cervus nippon)の分布域の拡大と個体数の増加に伴い、シカ食害の影響が拡大している。シカの影響を受けるおそれのある30カ所の国立公園の内64%において、ニホンジカが広範囲に生息し個体数も多い状況である(環境省 2019)。日光国立公園においても、ニホンジカによる食害が課題となっている。本研究で着目した自然観察や観光資源として人気のあるカエデ類についても、食害の対象となることが知られている(釜田ら 2008)。しかし、シカ食害についてカエデ類のみに着目した研究はなく、ウリハダカエデのように嗜好性について意見が分かれている樹種も存在する。そこで本研究では、シカの分布域拡大や個体数の増加が認められ、カエデ類を地域資源として位置づけている日光国立公園塩原地区において、カエデ類に対するシカの樹種嗜好性や食害による影響を定量的に評価することを目的とした。
本研究は、日光国立公園塩原地区にある、標高約980mの冷温帯に位置している塩原自然研究路の1.8kmの区間に自生する0.5m以上のカエデ類を含む木本植物を調査対象とした。この結果、カエデ類13種と主要な在来樹種58種の樹木の形態的特徴及び、シカ食害の状況を記録した。カエデ類は31.0%(n=311)在来樹種は12.0%(n=88)で食害の痕跡が確認され、カエデ類は在来樹種よりも多く食害されていた(p<0.05)。カエデ類の樹種ごとのシカ食害の有無割合は一定でなく、コミネカエデ(83.3%)、イロハカエデ(80.0%)、アサノハカエデ(62.5%)の順に高かった。一方で、樹種に対する食害の影響を検討するため、シカ食害可能なディアラインを1.6mとした際の、樹皮面積に対する剥皮された樹皮面積の割合を求めたところ、コミネカエデ、アサノハカエデ、メグスリノキの順に高かった。以上から、日光国立公園塩原地区のカエデ類は、在来樹種よりも食害の影響を受けやすく、カエデ類の樹種嗜好性には違いが認められ、カエデ類に対する影響にも樹種ごとに異なることが示唆された。