| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-007  (Poster presentation)

富士北麓におけるニホンジカの性的分離とその要因【O】【S】
Sexual segregation of sika deer in the northern slopes of Mount Fuji and its causes【O】【S】

*中村圭太(富士山科学研究所, 東京農工大学), 水村春香(富士山科学研究所), 武田和也(富士山科学研究所), 安田泰輔(富士山科学研究所)
*Keita NAKAMURA(MFRI, TUAT), Haruka MIZUMURA(MFRI), Kazuya TAKEDA(MFRI), Taisuke YASUDA(MFRI)

近年、北半球温帯域に位置する多くの国で一部のシカ科動物の個体数増加・高密度化が進行しており、多岐に渡る人間との軋轢が生じている。そのため、狩猟と管理捕獲によるシカ科動物の個体数管理が行われているが、行動に関する知見が個体数管理に導入された例は少ない。例えば、一夫多妻制の種では、メスの捕獲が個体数の抑制に有効であるが、性別による選択捕獲を実施するためのオス・メスの行動の違いに関する知見が十分でないという課題がある。
性的二型の発達した一夫多妻制のシカ科動物では、性的分離が生じることが多くの研究で確認されている。性的分離とは、オス・メスが異なる空間や資源を利用する現象であり、その要因として現在有力とされるのが「Gastrocentric Hypothesis」と「Predation-Risk Hypothesis」である。前者ではオス・メスの栄養要求の違い、後者ではオス・メスの捕食者に対する脆弱性の違いにより性的分離が生じると考えられている。
性的二型が発達し、一夫多妻制であるニホンジカ(Cervus nippon)についても性的分離が生じている可能性があるが、本種における性的分離の程度や要因を調べた研究はこれまで行われていない。そこで、富士北麓広域(南北約 16 km × 東西約 28 km)を調査範囲として、範囲内に合計50台のセンサーカメラ(Hyke Cam LT4G cameras (Hyke Inc., Hokkaido, Japan))を2022年11月から2024年4月まで設置し、各センサーカメラにおけるオス・メスの撮影状況を整理した。このデータを基に性的分離の程度をSSAS(Sexual Segregation and Aggregation Statistic)により定量評価した。また、各センサーカメラ地点で餌資源量を把握するための植生のトランセクト調査と、調査範囲内で管理捕獲が実施されている範囲を管理捕獲従事者へのヒアリング等により把握した。本発表では、富士北麓におけるニホンジカの性的分離の状況とその要因(餌資源量や管理捕獲の影響)について検討した結果を紹介する。


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