| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-008  (Poster presentation)

北アルプスにおけるニホンジカの遺伝構造:生態系保全と野生動物管理に向けて【O】【S】
Genetic Structure of Sika Deer (Cervus nippon) in the Northern Japanese Alps: Implications for Ecosystem Conservation and Wildlife Management【O】【S】

*熊瀨卓己(筑波大学), 高木俊人(神戸女学院大学), 兼子伸吾(福島大学), 永田純子(森林総研), 瀧井暁子(信州大学), 泉山茂之(信州大学), 田中啓介(東京情報大学), 津田吉晃(筑波大学)
*Kumase TAKUMI(University of Tsukuba), Toshihito TAKAGI(Kobe College), Shingo KANEKO(Fukushima University), Junko NAGATA(FFPRI), Akiko TAKII(Shinshu University), Shigeyuki IZUMIYAMA(Shinshu University), Keisuke TANAKA(TUIS), Yoshiaki TSUDA(University of Tsukuba)

ニホンジカ(Cervus nippon)の急激な生息数増加と分布拡大は、農林業被害や生態系への影響をもたらしており、人獣共通感染症や土壌流出、糞害による水質汚染も懸念されている。近年、ニホンジカは高山域へ進出し、南アルプスに代表されるように高山植物の被食被害が深刻な問題となっている。これまで侵入が確認されていなかった北アルプスにおいても、低密度ながらニホンジカの侵入が指摘されており、北アルプスの希少な高山植物群落への影響が予測される。本研究では、生態系・生物多様性保全の観点から、北アルプスおよび周辺地域を対象に、ニホンジカの遺伝構造を明らかにし、侵入シカ集団の起源、移動経路、地域集団間の遺伝子流動の実態などを明らかにすることで、北アルプスにおけるニホンジカの広域捕獲などの管理に応用することを目的とした。対象地域の市町村、行政機関、猟友会、解体処理場やジビエ関連の個人、団体など協力の下、北アルプス周辺のシカ遺伝解析試料を収集し、母性遺伝するミトコンドリアDNAを用いて北アルプス周辺に生息するニホンジカの遺伝構造を評価した。その結果、2013年~2018年に採集されたサンプルでは、白馬村でみられたヤクシカ系統ハプロタイプ以外の全個体は関東山地周辺で主要なハプロタイプであった。一方、2024年度の北アルプス周辺のサンプルからはこれらに加え、さらに2つのハプロタイプが検出された。これらのことから、現在進行形で複数の集団が北アルプス周辺に侵出していることがわかった。特にヤクシカ系統ハプロタイプは2024年には大町市からも検出され、その分布動向に注視する必要がある。今後は県境を跨いで収集されたサンプルの集団ゲノミクス研究により、北アルプス侵入個体の遺伝構造やその由来を解明し、広域捕獲、管理ユニットへの活用を目指す。


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