| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-009  (Poster presentation)

ニホンジカによるミズキの選択的樹皮食害【O】【S】
Selective bark feeding of Cornus controversa by the Japanese sika deer【O】【S】

*鈴木まほろ(岩手県立博物館)
*Mahoro SUZUKI(Iwate Prefectural Museum)

岩手県中央部、早池峰山塊の西端にある鶏頭山の南面(標高650~1100m)には、約200haの落葉広葉樹林がある。この地域では2010年頃からニホンジカが増加し、約10年の間に下層植生がほぼ消失した。高木・亜高木の樹皮食害も増えており、特にミズキは選択的な食害を受けて多くが枯死している。
この森林において、シカの樹皮食行動を記録するため、2020年12月から2本の健全なミズキ成木の前にセンサーカメラを1台ずつ通年設置した。このうちの1台で、2024年4月2日に雌のシカが樹皮を食べ始め、4月5日まで昼夜を問わず計8回訪れ、樹皮を少しずつ食べるところが記録された。この時、地面の雪はほぼ消えていた。
この森林の樹皮食害状況を記述するため、2024年11月に標高700mから950mまでの標高差50m(距離約300m)ごとに6か所、等高線に沿って長さ30m×幅6mの帯状区画を設け、区画内の全樹木の種と生死の別、樹皮食害や角とぎ跡の有無を記録した。各区画はミズキを1本以上含むように設定した。また標高700mに30m×30mの方形区画を設け、区画内の全樹木の胸高周囲長を計測し、種と生死の別、樹皮食害等の有無を記録した。
帯状区画調査では、全区画の情報を種ごとに合計し、食害率を求めた。その結果、計20種163本が記録され、樹皮食害の跡があったのは25%であった。このうちミズキは13本で食害率は100%であった。他の種は食害率が高い順に、マルバアオダモ88%、ウリハダカエデ66%、エゾイタヤ50%、ハリギリとアオハダがそれぞれ33%、ヤマモミジ31%、サワシバ25%であった。
方形区画調査では、計19種125本のうち、樹皮食害の跡がある木は6本あり、うち4本がミズキで胸高直径19.1cm~26.9cmの成木、ほかはエゾイタヤ6.7cm、アオハダ3.7cmの若木であった。


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