| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-011 (Poster presentation)
ササは長期の栄養成長後に、広域で多数の個体が一斉に開花・枯死する一回繁殖性の植物と考えられている。一方で、個体の一部が開花する小面積開花が頻繁に観察されているが、その意義や実生更新の可能性はほとんど検討されていない。
2011年に秋田市でクマイザサが小面積(2,300 m²)で開花した。本研究では小面積開花地で実生が更新する場合と、周囲の非開花ラメットが侵入して群落が回復する場合の2つの可能性に着目した。野外調査・生育実験から、開花後11年間の実生個体群動態と実生の生死や成長に及ぼす要因、非開花ラメットが開花地に侵入する際の栄養繁殖戦略を検討した。
従来、小面積開花後の実生更新は想定されてこなかったが、本調査地の実生は10年以上生存していた。そして、発生後2年目までの成長が早かった個体、ヘテロ接合度の高い個体ほど、11年間の生存率が高かった。実生の成長は、過去の一斉開花後の実生更新事例に比べて遅かったが、生育実験では明条件で稈数・地際直径が著しく増加したため、光条件の良い場所で定着できれば実生更新の可能性が高まると考えられる。
一方で開花後12年目の小面積開花地には非開花ラメットが著しく侵入していた。非開花ラメットの地下茎は、稈密度が低い場所に分布するほど稈を多く発生させるような成長パターンがみられたため、空間を効率的に占有するメカニズムを持つ可能性が示唆された。非開花ラメットが優占する前に実生が成長していなければ、実生更新は難しいと考えられる。
小面積開花は個体の一部の開花であり、一斉開花とは異なるタイミングで起こる。本研究から、ササは一斉開花に加えて小面積開花でも次世代を残すことで一回繁殖性のリスクを分散させている可能性が示された。一方、実生の成長が遅い場合には実生更新が失敗することも考えられる。そのため、開花個体にとって、次の繁殖に備えて非開花ラメットから再び分布拡大する戦略も重要であると考えられる。