| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-012  (Poster presentation)

イシモチソウにおける不思議な同調開花【A】【O】
Temperature dependent synchronus flowering in Drosera lunata【A】【O】

*満嶋輝(神戸大学)
*Teru MITSUSHIMA(Kobe Univ.)

 植物の繁殖において個体間で開花を同調させることは、交配可能な相手を増やし、送粉を促進するとともに、複数個体の同時開花によって花資源が集中し送粉者を誘引できるため、重要であると考えられている。一方で、自殖植物では交配相手や送粉者の不足時でも繁殖が可能なため、個体間の開花の同調性が低いとされている。しかし、本研究の研究対象であるイシモチソウは、主に自殖を通じて繁殖するにも関わらず、個体間で開花・非開花が日単位でそろうパルス状開花を示すことを発見した。一般的に、パルス状開花とは、開花期のうちに複数の開花ピークが存在する開花様式である。今回の調査では、花期真っただ中でも開花が全くみられない日が複数日存在することを発見した。これは非常にまれな開花様式で、本種のように花期の短い自殖性の虫媒花植物では報告が無い。
 本研究では、この不思議な開花パターンの特徴と適応的意義の解明を目的とし、調査を行った。33日間連続の集団の開花観察から、3日前から2日前にかけての急激な気温低下により個体の開花が抑制されてパルス状開花が引き起こされていること、また45個体の開花観察から、各個体におけるランダムな開花を仮定した場合に比べて、実際のパルス状開花では有意に個体間の開花同調性が高いことが明らかになった。この開花様式の適応的意義について検討するために、開花日の天気と関係、天気と結果率の関係を調査した。その結果、開花日は晴れの日に限られておらず、雨天時の開花は結果率を有意に低下させることが明らかになり、送粉に適した天候に合わせるためのパルス状開花ではないことが示された。一方で、単位面積あたりの開花数と送粉者の訪問数には有意な正の相関がみられ、個体間の開花同調により送粉者誘引が向上し、他殖を促進している可能性が示唆された。
 本発表では、イシモチソウの不思議な開花様式の研究を通して、植物の開花様式の至近・究極要因についての議論を深めたい。


日本生態学会