| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-014 (Poster presentation)
被子植物には、自家不和合性や葯・柱頭の物理的分離など、自家受精を避けるさまざまな仕組みが知られている。自家不和合性は一度失われると再獲得が難しい一方、葯・柱頭距離は自家受精を促す方向にも避ける方向にも進化しうると考えられてきた。ナス属植物の花は、花粉が葯の先端の穴から放出される特殊な構造を持つため、柱頭の突出長が他家受精を行うかを決める主要な要因であるとされている。
本研究では、日本在来ナス属植物4種(ヒヨドリジョウゴ、ヤマホロシ、マルバノホロシ、オオマルバノホロシ)を用いて、交配様式と花形態の繁殖への影響およびその進化過程を明らかにすることを目的とした。まず、自生個体および博物館標本を用いてMIG-seqによる系統解析を行なったところ4種が明瞭な単系統群を形成したため、これまでの形態に基づく分類が支持された。解析個体には海外のサンプルも含まれており、東アジアのナス属の分類学的再検討を行う基盤が整った。続いて、ヒヨドリジョウゴで袋がけ実験と花粉管伸長観察を行なったところ、本種は自家和合であることが明らかになった。外群と考えられる海外の種が自家和合であることから、4種と外群の共通祖先から自家和合であった可能性が考えられる。さらに、柱頭の葯からの突出長が、ヒヨドリジョウゴは他3種に比べて有意に大きいことが明らかになり、本種については、自家和合であっても自家受粉を防ぎ他殖を促す方向に花形態が進化した可能性が示唆された。以上の結果を踏まえて、ナス属における花形態と交配様式の進化過程について議論する。