| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-016 (Poster presentation)
森林下層に生育する樹木は、葉を水平方向に単層配置することで限られた光を効率的に利用する。枝を持たない樹木では、葉柄の長さと偏角(幹と葉柄のなす角)を上の葉から下の葉に向かって増加させる種(以下、増加型)と葉柄の長さと偏角が減少する種(以下、減少型)が存在する。増加型、減少型の展葉方法とも葉を単層配置しているが、それぞれの生態学的な違いについては未検討である。
光合成による生産量は限られているため、葉では葉身(光合成器官)と葉柄(支持器官)、地上部では幹と葉のバイオマス投資に最適な投資バランスが必要である。また、森林下層での樹木の生存・成長には、現環境下での効果的な光合成のための水平方向への成長(静的機能)と、明るい光環境を獲得するための高さ成長(動的機能)の間にトレードオフが存在する。そこで本研究では、二つの展葉型を葉身と葉柄間のバイオマス投資及び地上部バイオマス配分の観点から比較した。
広島県の常緑広葉樹林において、樹高30 ~ 300 cmのウコギ科4種(増加型:カクレミノ、ヤツデ、減少型:タカノツメ、コシアブラ)を対象に、葉、地上部のバイオマスと形態的特徴を調べた。各種15 ~ 20個体の葉身、葉柄、幹の乾燥重量と樹高、樹高10%の高さでの幹直径を測定した後、標準主軸回帰で相対成長関係を評価し、共分散分析を用いて比較した。
葉のバイオマス配分の比較では葉身と葉柄の間に展葉型間で有意な差はなかった(P > 0.05)。地上部では、増加型の種が高さに対してバイオマス量が多く、太く高密度な幹を持つ傾向があった(P < 0.05)。したがって、葉では葉身と葉柄間に最適な投資バランスがあると推察された。地上部では増加型が強度の高い幹を持ち重い葉を支える静的機能に重点を置く一方、減少型は細長い幹を持つことで樹高を上げる動的機能を重視した生存・成長戦略を持つことが示唆された。