| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-017 (Poster presentation)
生活史とは、生物が成長し、繁殖して死に至るまでの過程を指す。生物は種よって多種多様な生活史パターンを有する。生活史は環境の変動に適応する植物の進化戦略を解明する鍵であり、気候変動が生態系に与える影響を予測するために重要な知見である。熱帯季節林は明瞭な乾季と雨季が存在し、樹種構成の違いにより、落葉樹林、半常緑樹林、常緑樹林に分けられる。特に落葉樹林では樹木はは水分や光条件の変化が激しい環境において独自の適応戦略を発達させていると考えられる。対象種Melastoma saigonenseは、熱帯季節林に広く分布する常緑低木種であり、本種の生活史はほとんど明らかになっていない。本種の生活史を解明することは、本種の生態学的役割を理解する上で重要である。そこで本研究では、生活史のうち生存及び繁殖特性を解明し、環境要因とそれの関係を明らかにすることを目的とした。2023年の4月から2024年10月にかけて、カンボジアのシェムリアップ州に位置する落葉樹林プロットを用いて調査を実施した。分布パターン・成長特性を調べるために、プロット内の全個体を対象として生死を確認し、地際直径及び萌芽幹数を記録して相対成長率及び死亡率を算出した。また、繁殖特性を調べるために花芽数を計測し、受粉処理実験を行った。開花周期を明らかにするために花芽数を成長段階ごとに計測し、花芽の形質として花芽の幅と長さを測定した。 訪花昆虫の繁殖への寄与を調べるため、受粉処理を行った。環境要因として気象データ及び土壌含水率、開空度の測定を行った。また、毎木データをもとに胸高断面積合計を算出した。生存及び成長に環境が及ぼす影響を明らかにするため、枯死率、相対成長率及び個体の生死を応答変数、環境要因を説明変数として一般化線形モデルを用いて相関関係を調べた。その結果、成長に対して、いずれの説明変数も有意な影響は見られなかった。生存に対しては、土壌含水率が負の影響を与えており、萌芽幹数が正の影響を与えていた。