| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-018  (Poster presentation)

ハエ目昆虫媒花における異型花柱性の有効性【O】
Effectiveness of heterostyly in fly-pollinated flowers【O】

*柴田あかり(福井市自然史博物館), 工藤岳(北海道大学)
*Akari SHIBATA(FCMNH), Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

異型花柱性とは、種内に花柱の長さが異なる花をもつ個体が存在するシステムである。異なる花柱タイプ間で花粉の受け渡しがなされ、他家受粉を促進するシステムとされる。異型花柱性は長舌の昆虫により送粉される花筒が細長い花に見られることが多い。一方で、まれに花筒が短い花でも見られ、このような花での異型花柱性の有効性は明らかになっていない。本研究では、ミツガシワ科イワイチョウを対象に、花筒が短い漏斗状の花で異型花柱性がどのように機能するのかを明らかにすることを目的とする。
 調査は北海道大雪山系の高山帯で2019年と2020年の開花から結実期に行った。柱頭の高さと花糸の長さ、花粉の直径、胚珠数と花数を記録し、授粉処理(異型間他家/同型間他家/自家)後の結果率と結実率、自然状態の結果率と結実率を調べた。送粉昆虫組成と、昆虫と花の生殖器官が接する部位を調べるために、目視による訪花昆虫観察と訪花昆虫の動画撮影を行った。
 長花柱花と短花柱花は1:1に近い割合で見られた。花粉は長花柱花より短花柱花で大きかったが、花数と胚珠数は花柱タイプ間で差がなかった。同型間他家授粉と自家授粉では実った果実が少なく、その中で種子へと発達していた胚珠はわずかであった。自然状態での結果率は花柱タイプ間で差がなかったが、年度間では差があり、いずれの年も花粉制限が見られた。結実率は年度間と花柱タイプ間で差がなかった。ハエ目、ハチ目、チョウ目の昆虫による送粉が確認され、中でもハエ目のイエバエ、ハナバエ、ハナアブの仲間による訪花が多かった。イエバエとハナバエは、花の基部から出る花蜜を舐める際に、長花柱花の柱頭と短花柱花の葯に体の同じ部位が接触し、逆に、短花柱花の柱頭と長花柱花の葯に体の同じ部位が接触していた。このことから、イエバエとハナバエを含む中型のハエが、異なる花柱タイプ間で花粉の受け渡しを高め、他家受粉を促進していると考えられた。


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