| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-020  (Poster presentation)

都市で咲かない植物の進化【O】
The Evolution of Non-Flowering Plants in Urban Environments【O】

*藤田知弘(国立環境研究所), 津田直会(国立環境研究所), 小出大(国立環境研究所), 日下石碧(農研機構), 深野祐也(千葉大学), 井上智美(国立環境研究所)
*Tomohiro FUJITA(NIES), Naoe TSUDA(NIES), Dai KOIDE(NIES), Aoi NIKKESHI(NARO), Yuya FUKANO(Chiba Univ.), Tomomi INOUE(NIES)

近年、都市化に伴う環境変化が都市に生育する生物の進化を引き起こす可能性が指摘されている。都市では、ポリネーターとの相互作用といった生物的要因やヒートアイランドなどに起因する温度変化などの非生物的要因が周辺の農村生息地とは異なり、これらが都市特有の進化を引き起こしている可能性がある。しかし、都市における生物進化については研究例が少なく、メカニズムの解明が求められている。本発表では一年生草本植物スベリヒユを対象に都市と農村における繁殖形質の差異を解析した結果を報告する。本発表では特に都市化によるポリネーターの減少が引き起こす進化的影響について着目した。
国内7地域を対象とし、都市および周辺の農村で合計431個体のスベリヒユの実生を採集した。採集した実生を温室内の同一条件下にて栽培し、得られた種子を用いて、各個体群の繁殖形質(花タイプ(開放花、閉鎖花)、種子重量等)の測定を行った。スベリヒユは開放花のみを生産する個体(以降、開放花型)と閉鎖花のみを生産する個体(以降、閉鎖花型)が存在することが先行研究から知られている。
測定の結果、都市個体群では農村個体群に比較して、開放花型の出現割合が低く、開放花型の花サイズ(花冠長)が小さいことが明らかになった。次に、ポリネーター不在の条件で栽培した個体の種子数及び種子重を測定した。その結果、ポリネーター不在時(=自家受粉のみ可能)では、開放花型が生産した種子は閉鎖花型のものに比較して、種子数は多いが種子サイズが小さいことが明らかになった。種子サイズはその後の発芽や生存に関係することが知られており、ポリネーター不在時に開放花型が産する種子は閉鎖花型のものに比べて発芽率や実生の生存率が低い可能性がある。すなわち、ポリネーターの訪花頻度が少ない都市では、自家受粉に特化した閉鎖花型が有利になるのかもしれない。


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