| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-021 (Poster presentation)
繁殖戦略の違いによって生じる雌雄の対立(性的対立)は、雌雄の拮抗的な共進化や軍拡競走を生じさせることで、繁殖形質の急速な進化を駆動し、種分化に貢献する。しかし、雌雄の繁殖形質の種間比較の検証例は未だ多くないため、性的対立による大進化レベルでの繁殖形質の進化パターンはほとんど知られていない。そこで本研究では、交尾中に雌雄が様々な行動で攻防するハムシ科に着目し、性的対立によって雌雄の交尾行動が共進化してきたかを検証した。
実験室環境でハムシ科22種の交尾行動を観察し、性的対立に関わりうるオスの行動4種類(雄の交尾器挿入時間、交尾後ガード時間、雌への噛みつき回数、交尾器挿入中の腹部振動回数)と、メスの抵抗的な行動5種類(雄をキックした回数、体を振り回した回数、容器の壁面から落下した回数、上翅を開閉した回数、頭部を下げた回数)を計測した。種間比較解析の結果、ハムシ科の多くの種ではキックがメスの主な抵抗手段として用いられ、オスを背中から引きずり降ろして交尾を中断させる例も多く観察された。しかし、メスのキックはオスのどの行動とも進化的な関係がみられなかった。一方で、交尾中にオスが自身の腹部を震わせてメスの交尾器に刺激を与える種では、メスが体を多く振り回してオスを払いのけようとすることがわかった。また、これらの行動の進化パターンを検証するために祖先復元を行った結果、オスの腹部振動とメスの体の振り回しは共にカメノコハムシ亜科の種で急速に進化してきたことが示唆された。しかし、メスが体を振り回すことで交尾が中断された例は観察されておらず、メスの体の振り回しは抵抗としての効力が弱いか、抵抗以外の役割をもっている可能性がある。
以上より、ハムシ科の一部の系統において雌雄の特定の交尾行動が共進化してきたことが示唆された。今後は雌雄それぞれの行動の機能を調べ、交尾行動の共進化プロセスを検証する予定である。