| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-023  (Poster presentation)

日本産カエデ属 (Acer L.) の性表現による花序構造の違い【A】【O】
Differences in inflorescence architecture according to sex expression in Japanese maples【A】【O】

*加藤拓磨(大阪公立大学), 名波哲(大阪公立大学), 奥野聖也(大阪公立大学), 永野惇(龍谷大学, 慶應義塾大学), 伊東明(大阪公立大学)
*Takuma KATO(Osaka Metropolitan University), Satoshi NANAMI(Osaka Metropolitan University), Seiya OKUNO(Osaka Metropolitan University), Atsushi NAGANO(Ryukoku University, Keio University), Akira ITOH(Osaka Metropolitan University)

 植物の性表現は、両性と雌雄異株性の2つに大別される。両性植物は単一個体で花粉と種子の両方を生産できるのに対し、雌雄異株植物は単一個体が花粉か種子のどちらかしか生産しない。そのため、繁殖に関わる花粉の移動や種子の分散能力などが性表現間で異なる。これらの違いにより、性表現間で繁殖に関わる形質や生育環境に違いが生じることが、広い分類群を対象とした先行研究で報告されてきた。しかし、系統的に遠い種間では性表現以外の生態特性も異なるため、結果の解釈は容易ではない。
 本研究では、同属内に両性種と雌雄異株種の両方を含む日本産カエデ属29種を対象とし、性表現間で繁殖器官の形質と生育分布域の比較を行った。まず29種の系統関係をRAD-Seq法を用いて解析し、そして性表現間の形質比較を系統関係を考慮して行った。
 その結果、雌雄異株種は両性種に比べて、1花序あたりの花数が少なく、分布域が低緯度地域に偏る傾向があった。雌雄異株種で花序あたりの花数が少ないのは、花粉という報酬を提供しない雌花序において、送粉者が一部の雌花にしか訪れない行動への対策であり、訪花されない雌花を減らすことに寄与している可能性がある。また、雌雄異株種の低緯度地域への偏りは、低緯度地域のような植物の種多様性が高く送粉効率が低い条件下で雌雄異株性が進化しやすいという仮説を支持する。本研究により、性表現間の繁殖形質や生育環境の違いが、近縁種間の比較においても確認された。さらに、花序構造と生育分布域といった送粉と深く関係する形質が性表現間で異なっていたことから、性表現の進化が送粉と密接に関係していることを示す新たな証拠が得られた。


日本生態学会