| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-025  (Poster presentation)

デモグラフィー分析でみたマスティング崩壊の実態と実生更新への影響【O】
Demographic analyses of masting breakdown and its impact on seedling recruitment【O】

*柴田銃江(森林総合研究所), 小黒芳生(森林総合研究所), 直江将司(森林総合研究所), 阿部真(森林総合研究所), 黒川紘子(京都大学)
*Mitsue SHIBATA(FFPRI), Michio OGURO(FFPRI), Shoji NAOE(FFPRI), Shin ABE(FFPRI), Hiroko KUROKAWA(Kyoto University)

多くの長寿植物個体群でみられる同調して年変動する種子生産はマスティング(masting, mast seeding)と呼ばれ、受粉効率を高め、捕食者を飽食抑制するなどの繁殖戦略上のスケールメリットがあることが知られている。近年、欧州のブナを中心に温暖化にともなって種子生産の同調性と変動性が低下するマスティング崩壊(masting breakdown)が報告されるとともに、マスティングのスケールメリットが失われ、樹木の更新が制限されることが危惧されるようになった。しかし、マスティング崩壊の実態を把握した例はまだ少なく、その後の生活史段階への帰結はよくわかっていない。

北茨城の小川試験地では、1987年から主要樹種の種子生産が観測されてきた。この森林におけるブナ科5種においても、個体群内の種子の総数(胚珠段階を含む種子の個数)でみた種子生産の同調性と年変動性は夏季(6〜8月)の平均気温の上昇傾向に連関した変化がみられるも、その程度にはかなり種間差があった。同調性と年変動性が比較的大きい、すなわちマスティング性が強い〜中間的な樹種のうち、ブナとクリでは約30年間でそれらの指標値が大きな低下を示したが、イヌブナではそのような傾向はなかった。対して、マスティング性が弱い樹種のうち、コナラでは同調性も年変動性にも顕著な減少はなく、ミズナラではむしろ微増傾向にあった。一方で、どの樹種も種子の総数については増加傾向にあった。

このような各樹種のマスティング性の変化は、マスティングのスケールメリットの喪失あるいは維持、促進を介して、実生発生数に影響するのだろうか。本研究では、開花から結実までの間の主な死亡要因が、この数10年間でその効果をどの程度増減させたのか評価する。そして、種子総数の増加傾向や年変動性の変化によって、発芽可能な健全種子数と実生発生数がどの程度変化したのか明らかにしたい。


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