| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-027 (Poster presentation)
近年、自然生態系において顕著な病徴を示さずに植物ウイルスが広く感染していることが明らかになり、多くの植物種が感染下でも死亡せずに開花・結実・繁殖していると考えられている。アブラナ科の多年生草本であるハクサンハタザオ (Arabidopsis helleri) の自然集団では、カブモザイクウイルス (Turnip mosaic virus; TuMV) とキュウリモザイクウイルス (Cucumber mosaic virus; CMV) の感染が観察されている。これらのウイルスは農作物において著しい形態の変化をもたらすことが知られているが、繁殖成功度に対する影響はほとんど検証されていない。また、野生植物における形質や繁殖成功度への影響も不明な点が多い。
本研究では、兵庫県多可町門前のハクサンハタザオ自然集団において、開花前の2024年2月末から開花後期の5月中旬にかけ144個体を対象に調査を行い、TuMVおよびCMVの感染が花形質と繁殖成功度に及ぼす影響を評価した。対象個体の葉を採取し、RT-qPCRを用いてウイルス感染の有無を判定した。花形質としては、主茎の先端に付く花序の高さ、開花数、開花時の花直径、主茎の花序数を測定し、繁殖成功度の指標として結果率と結実率を求めた。
調査地のハクサンハタザオ集団では、TuMVの単独感染およびTuMVとCMVの重複感染がみられたが、CMVの単独感染はほとんどみられなかった。結果率はTuMV単独感染個体およびCMVとの重複感染個体が非感染個体に比べて有意に低下しており、TuMV感染が繁殖成功率を低下させることが示唆された。また、TuMV感染個体は花茎が倒れやすく、花序高が低くなる傾向が見られた。これらの結果を踏まえ、TuMV感染個体における結果率低下の原因を明らかにし、ウイルス感染がハクサンハタザオの適応度に与える影響について研究する必要がある。