| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-028 (Poster presentation)
世界中の都市に共通する物理的環境として、夜間の人工光とヒートアイランド現象による地温の上昇がある。しかし、これら2つの物理環境の変化が、都市の植物に与える包括的な影響はほとんど検証されていない。 そこで本研究では、都市環境で一般的にみられる草本植物14種を対象にして、最大100 lx程度の弱い夜間人工光と5-10℃の地温の上昇が、植物の開花時期と成長量に与える影響を実験的に検証した。
実験の結果、夜間人工光と地温の上昇は、実験に用いた多くの植物の開花時期と成長に独立に大きな影響を与えることが分かった。夜間人口光は、植物の開花を平均して2~16日程度変化させたが、一部の種(イヌタデなど)は開花が60日以上変化した。さらに、開花が変化する方向性は、植物の生育時期に依存することも分かった。具体的には、アメリカフウロなど春に開花する植物は夜間人工光によって開花が早まったのに対して、ホソアオゲイトウなど夏-秋に開花する植物は開花が遅くなった。一方で、夜間人工光は植物の成長量にも影響を与えたが、一貫した傾向を示さなかった。例えば、ノゲシの乾燥重を平均で18%増加させたものの、コバンソウの乾燥重は7%減少させた。
地温の上昇も、植物の開花時期と成長量に影響を与えた。地温の上昇によって植物の開花が平均2~30日程度変化し、この方向性は夜間人工光と同様に植物の成育時期に依存することがわかった。しかし、夜間人工光ほど劇的な変化はみられなかった。また、地温の上昇は植物の成長量にも影響を与えたが、その方向性は夜間人工光による影響と同様に、一貫した傾向を示さなかった。
本研究の結果 から、夜間人工光と地温の上昇は都市の草本植物の生活史に大きな影響を与えるが、その方向性は植物の成育時期に依存することが分かった。今後は、このような物理的環境の変化が都市の植物の群集構成や個体群動態に与える影響を研究する必要がある。