| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-029 (Poster presentation)
高山帯には雪田と風衝地を両極とする雪解け傾度が存在し、そこに幅広く分布する植物の形質に種内変異がみられることがある。中でも遺伝的分化を伴う局所適応が起こるには、ハビタット内で十分な遺伝的多様性が存在することが重要である。一方、日本に分布する高山植物のうち北方起源とされる種については、緯度の低下に沿ってその遺伝的多様性が減少していることが報告されている。
一回繁殖型の生活史を持つミヤマリンドウは、発芽から数年にわたって常緑葉を蓄積し続け、その葉数がある閾値を超えると開花・結実し、その後枯死する。本研究では、個体の開花時の総葉面積をその個体における「繁殖サイズ」と見なし、大雪山(北海道)と立山(富山)に生育するミヤマリンドウの雪解け傾度に沿った繁殖サイズを調査・比較した。
雪解け傾度に沿った個体の花数、葉数、総葉面積の変異を比較したところ、大雪山個体の総葉面積は立山と比較して特に雪解けの早いハビタットで大きく、変異の幅も大雪山で大きかった。なお個葉面積(=総葉面積/葉数)についても同様の傾向が見られ、葉数にサイト間の差はなかったことから、総葉面積の変異は葉数ではなく個葉面積によるものと考えられた。花数は大雪山個体の方が多く、雪解け傾度に沿った傾向は見られなかった。またいずれのサイトでも総葉面積が増加するほど花数が多くなっており、その依存性にサイト間の差はなかった。
以上の結果は、大雪山では雪解けが早く生育期間の長いハビタットで繁殖サイズが大きくなっており、その分多くの花を生産しているのに対し、立山ではハビタットの生育期間の変異に対する応答性が低いことを示唆している。この原因として、雪解け時期以外の環境要因の違いによる可塑的応答、あるいは個体群が有する遺伝的多様性の違いを反映した局所適応が考えられる。今後は遺伝解析を行うことでそれを検証する必要がある。