| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-031 (Poster presentation)
植物の分布や繁殖特性は、地史や環境条件、生物間相互作用の影響を受け、同じ地域内に生育する近縁種間でしばしば顕著な違いを示すことが知られている。ショウガ科ハナミョウガ属はインドから東南アジアの熱帯、亜熱帯域を中心に分布し、一部の種では開花中に柱頭の角度が変化して機能的に性転換する現象(フレキシスタイリー)が確認されている。しかし、ショウガ科の植物の繁殖特性に関する研究は熱帯・亜熱帯域の種に偏っており、温帯域の種の分布や繁殖に関する情報は限定的である。そこで本研究は、温帯から亜熱帯への移行地域である鹿児島県において、ハナミョウガ属のハナミョウガとアオノクマタケランを対象に、2種の分布と繁殖特性の実態について調査を行い、その差異と共通点を比較・考察した。
水平分布はハナミョウガ596点、アオノクマタケラン606点の標本と写真記録を整理し、垂直分布は県内4ヶ所で標高ごとの出現個体数を記録した。繁殖特性は、開花フェノロジー、性型比、1日の中での柱頭の角度変化、雌性期の長さ、自然条件下での結果率の5項目を調査した。
2種の分布は明瞭な違いがあり、アオノクマタケランは県本土の海岸近傍や島嶼に分布する傾向があったのに対し、ハナミョウガは主に内陸に分布し、低地から標高が高くなるにつれて出現頻度が増加する傾向があった。繁殖特性については、両種ともフレキシスタイリーが確認され、集団の性型比は約1:1であり、雌性先熟型は雄性先熟型よりも雌性期が長い傾向にあった。一方、結果率は性型間で有意差はなかった。雄性先熟型では雌性期への移行後も葯に花粉が残存していたことがあり、個体によっては両性に近い状態を示す可能性が示唆された。このことが雌性期の相対的な短さを補うと考えられる。以上より、2種は水平・垂直分布において種間で大きな違いがみられる一方、繁殖特性は共通する特徴が多くみられることが明らかとなった。