| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-033  (Poster presentation)

クズの花粉サイズと種子生産は標高によって異なるか?【A】【O】
Do pollen sizes and seed production in Pueraria lobata differ depending on altitudes?【A】【O】

*中村結和, 鈴木準一郎(東京都立大学)
*Yuna NAKAMURA, Jun-Ichirou SUZUKI(Tokyo Metropolitan University)

 植物の繁殖は次世代個体の定着を左右し、繁殖形質はある種の環境勾配に応答することがある。これまでの研究の多くでは、受粉から結実、発芽など受粉後のイベントに注目してきた。一方で、配偶子融合以前の花粉形成も繁殖の成否に影響するにもかかわらず、知見の蓄積が乏しい。本研究では、平地では非常に多いが、標高1000 m程度以上の産地にはほとんど分布しないクズ(Pueraria lobata)を材料に、その花粉形成と種子生産の標高による変化を解析した。平地から分布標高の上限付近で花粉と種子を採集し、その形質を定量的に比較した。
 東京都西多摩郡奥多摩町の鋸山林道と風張峠付近で、花期の2023年と2024年9月に6個体から花を採集した。グリセリンゼリー法で花粉を封入したプレパラートにて花粉サイズ(顕微鏡下で花粉粒の最大内接円の直径)を計測した。また、結実期の2023年11月と2024年12月には15個体から種子を採集し、種子重量などを計測した。
 2024年の結果から、個体あたりの花粉サイズの平均値には標高による明瞭な変化は見られなかった。個体あたりの全種子に対する充実種子の割合は大きくばらつき、標高に対する明瞭な変化は見られなかった。高標高では充実種子重量の個体あたりの平均値が小さい傾向は見られたが、統計的には有意でなかった。2023年の結果も同様だった。また、標高を問わず豆果にはハモグリバエsp.の蛹が見られた。
 以上より、今回のサンプルの範囲では、標高による花粉サイズと種子生産に顕著な変化は見られなかった。一方で、充実種子の重量は変化する可能性が示唆された。とくに花粉サイズに関してはサンプリングサイズを増やし、種子についても採集地域を広げて、さらに検討する必要がある。


日本生態学会