| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-045 (Poster presentation)
高山に降り積もる雪には寒い環境でしか生きられない氷雪藻と呼ばれる微細藻類が生息する。雪には他に繊毛虫やクマムシ、菌類などが生息するが、氷雪藻は一次生産者として積雪生態系を支える重要な存在である。氷雪藻が繁殖すると雪の色が緑や赤に染まる彩雪現象を引き起こす。雪の色の違いは、標高など環境の違いに応じて氷雪藻の群集構造が異なるためと考えられている。一方、ブナなど樹林帯内の積雪では、似た環境にもかかわらず緑雪や赤雪など異なる色の雪がパッチ状に出現する。そこで本研究では雪の色による氷雪藻の群集構造を比較するとともに、群集組成に影響を与える環境要因を解析し、雪の色を決める要因を検討した。
調査は2023年5月に山形県月山ブナ林の残雪で行った。表層3 cmを採取し、顕微鏡観察およびDNAメタバーコーディング解析(18S rDNA V4領域)によって藻類の群集組成を解析した。環境要因は、開空率、pH、EC、溶存化学成分濃度を測定した。また、藻類の捕食者である繊毛虫やクマムシの密度を計数した。
顕微鏡観察により出現した藻類を形態に基づきタイプ分けした結果、緑雪では緑色の遊泳細胞が、赤雪では赤色の休眠胞子が多く観察され、雪の色によって藻類の生活史段階が異なることが明らかとなった。タイプ分けに基づく藻類組成と環境要因との関連性はみられなかったが、赤雪では体内が緑色の藻類で満たされた繊毛虫が多く観察された。赤い雪では繊毛虫が緑色の藻類を選択的に捕食した結果、赤色の藻類の割合が増えた可能性がある。DNAメタバーコーディング解析の結果、緑雪と赤雪とで藻類の群集組成が異なり、開空率が群集組成に有意な影響を与えていた。赤雪には特徴的なASV(Uncultured Chloromonas)が多く存在したことから、日射が強く捕食圧が高い環境において特定の藻類が休眠状態で優占したために赤い雪がみられた可能性がある。