| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-047 (Poster presentation)
維管束植物の71 % がアーバスキュラー菌根菌(AM菌)と共生している。一般に、この関係は相利共生であり、植物は光合成産物をAM菌に供給する対価として、AM菌から様々な恩恵を得ている。菌根共生が植物にもたらす効果は、植物とAM菌の組み合わせによって異なることが知られているが、AM菌群集の形成過程については未解明の部分が多い。北海道の夏緑樹林に生育する植物52種(全て成熟個体)を対象として行われた先行研究では、高木と林床植物で共生するAM菌群集が明瞭に異なり、高木は主にGlomeraceae科と、林床植物はArchaeosporaceae科等と共生する傾向が見られた。森林では、高木の生産力が林床植物に比べて圧倒的に大きく、AM菌にも多くの有機炭素を供給できる。このことから、植物個体が自身の生産力に応じて異なる選好性を持つ可能性がある。本研究では、落葉高木ヤチダモを対象とし、生産力の異なる2つの生育段階間でAM菌群集が異なるかを検証した。宮城県内の夏緑樹林において成木と当年生実生(計 34個体)の菌根を採集し、次世代シーケンサーを用いたAM菌のDNAメタバーコーディング分析を行った。PERMANOVAの結果、AM菌群集の組成には採集地点間で有意な差が見られたが、生育段階の影響は認められなかった。しかし、全体を通して出現頻度の高かった4つの科がAM菌群集に占める割合は、生育段階間で有意に異なり、Glomeraceae科の割合は成木段階で高く、Archaeosporaceae科は実生段階で高かった。また、Claroideoglomeraceae科の割合も実生段階で多い傾向が見られた。これらの結果から、実生段階ではGlomeraceae科との共生頻度が低い一方で、AM菌群集の組成は採集地点ごとの環境に応じて異なることが示唆された。本研究の結果から、植物の生産力に応じて、共生するAM菌群集が異なる可能性が高まった。現段階で理由は不明だが、AM菌の系統によって宿主植物に対する炭水化物の要求性が異なっている可能性が考えられる。