| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-049 (Poster presentation)
野生動物の生息環境では、季節によって食物の利用可能性が大きく変動する。植物を主に採食する動物は、消化管内細菌に食物繊維の消化を依存しており、細菌叢は食餌内容や環境によって柔軟に変動することから、食物の季節変動への適応に大きく貢献していると考えられる。本研究では、ガボン共和国、ムカラバ-ドゥドゥ国立公園に生息するゴリラとチンパンジーの腸内細菌叢が、種および季節特有の食物条件に応じた発酵能力を持つかを調査した。中央アフリカに同所的に生息する両種は消化管の形態に大きな違いはないものの、異なる食性を示すことが知られている。ともに果実や葉を主に採食するが、ゴリラは年間を通して葉食傾向であるのに対し、チンパンジーは果実不足期でも果実への依存を続ける。本研究では、この食性の違いを反映し、ゴリラは高繊維食物に対する発酵能力が高く、反対にチンパンジーは低繊維食物に対する発酵能力が高いと予測した。雨季と乾季に、それぞれの新鮮な糞を採集し、腸内細菌叢の16S rRNA遺伝子 V3-V4シーケンス解析と、果実、葉、髄、種子を基質とした試験管内発酵実験を行った。試験管内発酵実験では、糞便懸濁液に食物を基質として混合し、腸内細菌の発酵により産生されたガスと短鎖脂肪酸の量を測定することで、基質に対する発酵能力を評価した。その結果、腸内細菌叢のβ多様性は種間および季節間で有意に差があり、α多様性は雨季・乾季ともにチンパンジーの方がゴリラよりも有意に高かった。予測に反し、ガスと短鎖脂肪酸の産生量は、雨季には高繊維・低繊維の基質ともにチンパンジーの腸内細菌叢の方がゴリラよりも高い傾向があり、乾季にはその差は減少した。これらの結果から、腸内細菌による発酵能力だけでゴリラとチンパンジーの食性の差が説明できるわけではなく、消化管通過時間などのほかの要因の影響も考慮する必要があると考えられる。