| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-052 (Poster presentation)
キバチ類(キバチ科とクビナガキバチ科)は菌類と共生する材食性昆虫である。両科とも、産卵する際に木材腐朽菌を注入して木質を分解させることで、貧栄養の材内で繁殖に成功している。とくにクビナガキバチ科は、倒木や枯死直後の樹木という予測性の低い資源を利用する。このため、同所的に生息する本科のキバチ種は、限られた資源をめぐる競争を回避し、共生系を維持する戦略を持っている可能性がある。実際に、本科は種間で異なる樹種から羽化脱出することが判明している(Takagi and Kajimura 2025)。しかし、その寄主木選好性に共生菌がどのように関与しているのかは未解明である。
本研究では、クビナガキバチ(以下、クビナガ)、ヒゲジロクビナガキバチ(以下、ヒゲジロ)の同属2種について、雌成虫の菌貯蔵器官(Takagi and Kajimura 2025)から共生菌を分離し、両種の寄主木を含む4樹種の丸太へ接種した。30日後に割材し、一般に菌の伸長と正相関する材部の変色域を計測した。その結果、変色域はケヤマハンノキ(クビナガ寄主木)ではクビナガ共生菌の接種区で最大、コハウチワカエデ(ヒゲジロ寄主木)ではヒゲジロ共生菌の接種区で最大になった。一方、スギ・ヒノキ(非寄主木)ではいずれの共生菌の接種区でも明瞭な材変色は認められなかった。さらに、加熱処理した(抵抗性を低減させた)丸太では、ケヤマハンノキとコハウチワカエデでヒゲジロ共生菌の接種区が最も広範に材変色した。
以上の結果は、菌が共生相手となるキバチ種の利用樹種と対応することを実証しており、クビナガキバチ-菌類共生系における寄主木選好性を支持するものである。つまり、キバチ種は寄主木の樹種での伸長に適した共生菌を保持することで資源分割を成功させ、逆に菌類も自身の繁殖に適した樹種を利用するキバチ種と共生することで効率的に定着していると推察される。