| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-053 (Poster presentation)
ナラ類を主体とする広葉樹林では、樹木の地上部が失われた場合に発生する萌芽を利用した萌芽更新が行われており、低コストで広葉樹林を更新する手法として注目されている。森林土壌に生育する細菌や真菌などの微生物は、物質交換を通して植物の生産機能と深く関わっている。植物の細根の周囲の土壌である根圏土壌では、細根から根滲出物が供給されるため、非根圏土壌に比べ微生物の量や活性が高くなり、有機物の分解・無機化が促進されることが知られている。根滲出物の量は日射量に強く影響を受けることが報告されており、伐採や環状剝皮といった操作実験により光合成生産物の供給を遮断した場合、土壌中の微生物群集の種組成や種数が変化し、微生物量が低下することが示されている。萌芽更新では、樹木の伐採と発生した萌芽による個体の再生に伴い地下部への光合成生産物の供給状態が変化するが、その変化が根圏土壌の微生物群集に与える影響を評価した例はほとんどない。本研究では、ミズナラの萌芽更新が根圏微生物群集に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
北海道東部に位置する京都大学北海道研究林標茶区構内の33年生ミズナラ林において、伐採個体と対照個体(非伐採個体)それぞれ9個体ずつ計18個体を設定した。2024年6月に伐採処理を行ったところ、8月に9個体中6個体で萌芽の発生が確認された。伐採前の5月と萌芽発生確認後の8月に各個体直下から土壌と根系を採取した。採取した土壌について物理化学性を測定し、土壌と根系について細菌16S rRNAと真菌ITS領域を対象としたDNAメタバーコーディングによって微生物の群集組成を解析した。土壌pHおよび全炭素窒素濃度については、伐採前後や萌芽発生の有無による変化はほとんどみられなかった。本発表では、伐採前と萌芽発生後の根圏微生物群集組成及び土壌物理化学性のデータをもとに、萌芽更新が根圏土壌に及ぼす影響について議論する。