| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-054 (Poster presentation)
倒木更新に依存する冷温帯樹種には、マツ科などの外生菌根性樹種が多く見られる。それら樹木は、外生菌根菌(以降、菌根菌)を介して栄養獲得していると考えられるが、倒木更新木の場合、共生相手である菌根菌の栄養獲得機能は、更新初期の倒木上と成長の末到達する土壌中で大きく変化すると予測される。本研究では、倒木上と土壌中の栄養環境の違いと菌根菌の特性に着目し、菌根表面の細胞外酵素活性を分析した。樹高100㎝前後の土壌まで根が伸長した倒木更新エゾマツ5個体から、菌根175根端を倒木上および土壌中からそれぞれ採取した。各菌根について探索タイプ(Agerer 2001)を識別するとともに、根端部の外生菌根の有機物分解酵素活性と基質のCN比、pH、無機態窒素量を測定した。また、各酵素活性に及ぼす倒木に起因した環境要素の影響をパス解析を用いて解析した。
栄養環境は、倒木上のほうが土壌よりも有意にpHおよび硝酸態窒素量が低く、CN比が高かった。また、菌糸が短いContact型の菌根菌の割合が有意に高かった。さらに、炭素分解系の酵素であるβ-グルコサミニターゼ(BG)とラッカーゼ(LCC)の活性が倒木上で高い傾向を示した。パス解析の結果、炭素分解系の酵素活性に対して、倒木上ではContact型の菌根菌が多いことでBGとLCCの活性が高まる傾向が見られた。そして窒素分解系では、倒木上で硝酸態窒素が低下すると、ペプチド分解酵素であるロイシンアミノペプチターゼの活性が低くなった。一方、倒木上でpHが低下すると、キチン分解酵素であるN-アセチルグルコサミニターゼの活性が高まる傾向が見られ、貧栄養な倒木上でも窒素獲得能が維持されていることが示唆された。このことから、倒木上における菌根菌は、基質環境に適応した酵素活性を示し、これらの機能変化は木質分解に特化した菌根菌へ種組成が変化したことに由来すると考えられる。