| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-055 (Poster presentation)
社会性昆虫は捕食者の攻撃や寄生虫や病原体の侵入からコロニーを物理的に守るため、頑強な巣を構築する。これまで、シロアリの巣に関する研究の多くはその物理的防御機能に焦点が当ててきたが、巣内にはさまざまな微生物が棲息しておりコロニーの衛生環境を維持する役割を担っている。本研究ではシロアリの巣が有する動的な抗菌防御機構を報告する。この機構では、シロアリが病原菌に感染した死骸を巣材に埋葬することで、巣内に生息する共生細菌による抗菌防御機能が強化される。
湿材シロアリであるHodotermopsis sjostedtiに巣仲間の死骸を提示したところ、ワーカーは非感染の死骸を共食いによって処理する一方で、病原性リスクが高い感染死骸を巣材に埋葬することを発見した。埋葬された死骸からは菌糸の発育が抑制されており、埋葬先である巣材からは抗生物質産生能を持つStreptomyces属放線菌が単離された。死骸が埋葬された巣材では、抗生物質を産生する細菌であるStreptomycesの存在量が増加し、巣材の抗真菌活性が向上していた。さらに、このStreptomycesは、シロアリの病原菌の発育を抑制し、病原菌が存在する環境下におけるワーカー個体の生存率を向上させた。これらの結果は、シロアリと巣内に生息する共生細菌との相互作用が死骸の埋葬によって促進され、巣の衛生環境の維持に貢献していることを示唆している。本研究は、巣が「生きた防御壁」として機能することを明らかにし、社会性昆虫が持つ動的な病原体防御システムの理解を深めるものである。