| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-056  (Poster presentation)

子座形成および潜在感染のEpichloëを有するヤマカモジグサにおける菌類群集の多様性【A】【O】
Diversity of endophytic fungi in live and dead leaf sheathes of Brachypodium sylvaticum with stroma-forming and asymptomatic Epichloë endophyte【A】【O】

*秦野悠貴(同志社大学大学院), 松岡俊将(京都大学), 舘野隆之輔(京都大学), 大園享司(同志社大学)
*Yuki HATANO(Doshisha University), Shunsuke MATSUOKA(Kyoto Univ.), Ryunosuke TATENO(Kyoto Univ.), Takashi OSONO(Doshisha Univ.)

表面殺菌した植物組織内部から出現する菌類を内生菌という。内生菌のうちイネ科植物に全身的に感染するEpichloë属菌類は有性生活環と無性生活環の2つの生活環を有している。無性生活環(潜在感染)のEpichloëには感染による宿主植物の生育促進、病原菌との抵抗性の付与が知られており、宿主と相利共生関係にある。一方、有性生活環では宿主の葉鞘に子座を形成し、宿主の花序形成と種子生産を阻害するため、両者は寄生関係にある。近年、潜在感染のEpichloëは同所的に生息する非全身性内生菌の群集組成に影響を及ぼすことが報告されている。非全身性内生菌には潜在的な病原菌や腐生菌として機能する菌類も含まれるが、Epichloëの感染様式の違いによる非全身性内生菌の多様性とその機能への影響についてはよくわかっていない。

本研究では、Epichloëの感染様式の違いが非全身性内生菌の多様性と機能に及ぼす影響の評価を目的とし、長野県の筑波大学菅平高原実験所において、ヤマカモジグサを3つのEpichloë感染タイプ(子座形成個体、潜在感染個体、非感染個体)に分け、それぞれの生葉と枯死葉の非全身性内生菌の多様性と機能を比較した。
菌類相は、表面殺菌した葉から抽出したDNAを対象にrDNAのITS1領域のメタバーコーディングを行い、得られた配列を97%の相同性閾値で操作的分類群(OTU)に分け、各OTUをデータベースに照合することで分類群と機能群の推定を行った。

その結果、感染タイプおよび生葉・枯死葉の間でサンプルあたりの非全身性内生菌OTU数が有意に異なり、生葉の子座形成個体で最もOTU数が高くなった。また、植物病原菌と落葉分解菌のOTU数も感染タイプおよび生葉・枯死葉間で有意に異なった。OTU組成については、すべての非全身性内生菌と落葉分解菌の組成が感染タイプおよび生葉・枯死葉の間で有意に異なった。これらのことから、宿主生存時のEpichloëの感染様式の影響が枯死葉でも持続する可能性が示唆された。


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