| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-057 (Poster presentation)
外生菌根菌(EcM)は樹木と相利共生する土壌微生物叢の重要な一員である。EcM共生関係の特徴として高い宿主特異性があり、EcM・宿主樹木によってその強さは異なることが知られているが、生態系における特異性の働きは未だ議論の中にある。これは、野外のEcM感染に対する宿主特異性の寄与が明らかではないからである。EcMは広い菌糸網を持ち、隣接樹木の種構成や密度によって群集は大きく変化する(近隣効果)ため、野外の菌根群集は必ずしも宿主特異性を反映していない。このことがEcMの宿主特異性の実態を不明瞭にし、群集決定に対する重要性の理解を阻んできた。
そこで本研究は、1)近隣効果が無い条件で形成されるEcM群集の特性、2)近隣効果のソースからの距離依存的なEcM群集の変化、という2点を明らかにすることによって、EcM群集形成における宿主特異性および近隣効果の寄与を解明することを目的とした。
第一に、種子からポットで育成した苗を用いてEcM群集の調査を行った。第二に、森林内で強度の表層土壌剝取を施した試験地における天然更新実生(ミズナラ)のEcM群集の調査を行った。本試験地では強度の表層土壌剥取によって土壌に残存する胞子や菌糸が存在しないため、林縁部の成木根圏がEcM感染のソースとなることは明白であり、近隣効果の評価に適する。
第一の実験では15樹種でEcM群集を調べ、検出されたEcM分類群それぞれについて宿主特異性指標を算出した。樹種ごとに特異性は異なっており、ハンノキ属は少数の樹種特異的EcMと共生する一方、カバノキ属などでは樹種特異性の低いEcMと高頻度に共生していた。
第二の実験では、ソースから5m程度の範囲で類似度の高いEcM群集が形成されていた。一方、実生のみで検出されたEcMは空間的に偏りなく分布し、これらは胞子で移入してきたと考えられた。すなわち、実生定着時に、近隣効果が寄与する空間スケールと、宿主特異性の重要性が顕在化する空間スケールが明らかになった。