| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-058  (Poster presentation)

森林地下部における細根と共生微生物の空間分布【A】【O】
Underground spatial distribution of fine roots and symbiotic microbes in a forest【A】【O】

*野口幹仁(京都大学), 陶山佳久(東北大学), 高橋大樹(九州大学), 東樹宏和(京都大学)
*Mikihito NOGUCHI(Kyoto Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Daiki TAKAHASHI(Kyushu Univ.), Hirokazu TOJU(Kyoto Univ.)

宿主植物と土壌の病原菌や菌根菌をはじめとした多様な微生物との相互作用は、宿主の生存と生育に大きな影響を与える。森林生態系においてこの相互作用は、関与する微生物が土壌あるいは接触した植物体を介して分散することで、単一の宿主個体のみでなく、周囲の他個体に対しても波及する。この植物―土壌フィードバックと呼ばれる現象は、森林の次世代を担う実生の適応度に対しても大きな影響を持つため、森林の更新や動態を決定づける重要な要因と考えられる。しかし、森林地下部における大部分の微生物の生態に関する知見は不足しており、このフィードバックが及ぶ空間範囲を決める分散特性は明らかにされていない。そこで本発表では、東北大学川渡フィールドセンター内のブナ・ミズナラ林にて採取した植物根および土壌サンプルに対して、定量的なアンプリコンシーケンスを行い、真菌170 OTUと原核生物(細菌・古細菌)776 OTUの空間的な出現パターンを解析した。モランI統計量による空間自己相関の解析の結果、根および土壌において、それぞれ真菌19 OTUと16 OTU、原核生物110 OTUと13 OTUで有意な空間自己相関が検出された。しかし、その中で根と土壌の両方で有意であったOTUは、真菌ではHyaloscyphaceaeに属する1 OTU、原核生物ではAquisphaeraおよびAcidobacteriae Subgroup 2に属する2 OTUのみであった。さらに、バリオグラム解析により各OTUの空間依存性の範囲(有効レンジ)を推定したところ、真菌・原核生物ともに、根と土壌における空間自己相関の範囲に有意な対応関係は認められなかった。以上の結果から、森林土壌の微生物は、土壌を介した拡散と根間での直接的な伝搬という異なる分散様式のいずれかに適応している可能性が示唆された。本発表では、真菌および原核生物の機能群と系統ごとの空間相関の強さと範囲に基づき、森林生態系における微生物の空間分布パターンの形成要因について議論したい。


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