| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-059 (Poster presentation)
感染症は人の健康に深刻な影響を及ぼすが、特に真菌感染症は、有効な薬剤が限られているため治療の選択肢が少なく、対策が難しい。加えて近年、薬剤耐性をもつ真菌が増加し、大きな問題となっている。薬剤耐性真菌は突然変異により生じ、薬剤の存在下で増殖することから、医療現場のほか医薬品と同系統の農薬が用いられる野外でもしばしば発見される。このように野外で出現した薬剤耐性真菌を都市部へ運ぶ媒体の候補として、渡り鳥が挙げられる。渡り鳥は恒温動物の中でも移動能力に優れており、人獣共通の病原体を運ぶことが知られている。しかし、渡り鳥が実際にどのような真菌を保有しているのかは解明されておらず、同様に薬剤耐性真菌との関わりも不明である。そこで本研究では、渡り鳥の腸内に存在する薬剤耐性真菌の保有状況を把握することを目的とした。今年度は、渡り鳥の種ごとの真菌保有傾向を把握することを目標に以下の実験を行った。全国6地点から渡り鳥の糞を集め、サブローデキストロース寒天培地を用いて真菌を培養した。そのうえで菌種をリボソーム領域のDNAシーケンスにより同定した。結果として、鳥類4目14種から23目84種の真菌が分離された。鳥種により、保有する菌種が目レベルで大きく異なっていた。さらに菌種数と鳥の食性の関連を一般化線形混合モデルで解析したところ、昆虫食を基準として、魚食と雑食の種で菌種数が有意に多かった。また、菌種ごとの宿主鳥類の重複状況を確認したところ、全体の8.8%が複数の鳥種から検出され、その全てが異なる調査地点で捕獲された鳥個体から得られたものであった。さらに、ヒトへの感染が報告されている菌も7種発見された。これらの結果から、渡り鳥は糞を介してヒト病原性を含む真菌を運搬していることがわかった。今後は収集した菌株について、各種の薬剤耐性試験も行うことで、鳥類による病原性薬剤耐性真菌の運搬の実態を解明したいと考えている。