| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-060 (Poster presentation)
森林生態系において、下層植生は生物多様性の維持や物質循環の調節など、多様な生態系機能を担っている。しかし近年、全国的にシカの過採食などによる下層植生の衰退が拡大し、その影響が深刻化している。下層植生の衰退により、土壌への有機物供給量・質の変化や、土壌微生物群集の変化を介して、有機物分解や養分循環といった生態系機能への影響が懸念されている。これまで、下層植生の違いにより、土壌微生物群集がどのように異なるかといった報告は多数存在する。しかし、下層植生が衰退した際に、土壌微生物がどのくらいの期間でどのように変化するのかといった時間変化についての知見は限られている。そこで本研究では、下層植生が衰退した際に土壌微生物群集がどのような時間スケールで変化するのかについて評価することを目的とした。
調査は北海道東部の京都大学北海道研究林標茶区内のミズナラ(Quercus crispula)天然林で行った。林床はミヤコザサ(Sasa nipponica)に覆われていた。6m四方の調査プロットを6か所設置し、各プロットを4つの小区画に等分した。このうち、1区画を対照区、残り3区画を刈り取り区とした。刈り取り区では、2024年7月に下層植生の刈り取りを行った。6プロット中、5プロットでは刈り取り直前、刈り取り1週間後、9月、11月の計4回、1プロットではさらに8月の計5回、リター層を除いた表層10cmの土壌を採取した。さらに、7月の調査時には、プロット付近で10年以上ササの刈り取りを行っている4つの調査区においても土壌を採取した。採取した土壌を対象にDNAメタバーコーディングを行うことで細菌と真菌の種組成に与える影響を評価した。本発表では、下層植生の刈り取り前後の一連の土壌サンプルと、10年以上刈り取りを継続している区の土壌サンプル間での土壌微生物群集を比較することで、下層植生の衰退による短期的・長期的な土壌微生物群集の種組成の変化について議論する。