| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-061 (Poster presentation)
植物による侵略は土壌微生物群集を改変し、生態系サービスの低下を招く。外来植物による微生物群集改変は被侵略生態系に影響を与え、改変された微生物叢はその外来植物の侵略を促進しうる。そのため、植物と土壌微生物の相互作用を明らかにすることは、外来植物の個体群動態の理解や生態系への影響評価の観点から重要である。作物やモデル植物では、根から滲出する二次代謝産物が根圏に特定の微生物を集積することが知られているが、侵略植物由来の二次代謝産物が土壌微生物に与える影響は未解明である。
発表者らは、東アジアを在来地としアメリカで侵略的外来種となっているマンリョウ(Ardisia crenata)を研究対象とした。マンリョウは根にトリテルペノイドサポニンを蓄積することが知られているが、その生態学的機能は未知である。本研究ではサポニンが森林生態系の根圏微生物群集に及ぼす影響を解明するため、京都府に自生するマンリョウの実生と成木における根と根圏のサポニン濃度をLC/MSで解析した。次に土壌への代謝物添加法を用いて、サポニン処理が微生物群集構造に及ぼす効果を評価した。さらにマンリョウ根圏の微生物群集データとサポニン処理実験の結果を統合することにより、サポニンが根圏微生物の選択的な集積および排除に関与するかを検証した。
LC/MS解析の結果、根圏におけるサポニン含有量は発達段階によって大きく異なり、成木での濃度が実生よりも高いことが示された。また代謝物添加実験からは、サポニンの濃度に応じて土壌微生物の群集構造が変化することが示された。さらに、成木の根圏で集積されていた細菌群の一部は、実験室環境下でのサポニン処理によっても集積されることが確認された。これらの結果は、マンリョウに由来するサポニンが根圏微生物群集を制御している可能性を示すものであり、発達段階特異的なサポニンの蓄積が植物-土壌微生物間の相互作用において重要な役割を果たすことを示唆する。