| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-065 (Poster presentation)
動物の成長や生存には、温度などの物理的要因や種間競争などの生物的要因が交絡した上で影響を及ぼすため、これらの要因を分離し、種間競争の影響を明らかにすることは一般的に容易でない。小規模ダム(堰堤)は、魚類の遡上を妨げ、ダム上流において回遊性魚類の局所絶滅を引き起こし、定住性の高い種の単独生息域を創出する。ダムの上下流の物理的環境の差が小さい河川において、単独で生息する個体群と競争種と共存する個体群を比較することで、物理的要因の効果を排除し、種間競争のみの影響を抽出できると考えられる。本研究では、激しい種間競争が観察されるサケ科魚類3種を対象に、ダム建設による回遊性魚類(イワナ・ヤマメ)の局所絶滅に起因する種間競争からの解放が、残存するオショロコマ個体群に及ぼす影響を評価し、種間競争の影響を解明することを目的とした。
調査は北海道湧別川水系の5河川において、2023年7月(索餌期)と10月(繁殖期)に実施した。オショロコマ単独域(ダム上流, 3地点)とオショロコマ、ヤマメ、イワナの3種共存域(ダム下流/ダム無河川, 5地点)に調査区間を設置した。なお、単独域と共存域間の物理的環境に統計的な有意差は無かった。
種間競争から解放された単独域のオショロコマは、共存域のオショロコマと比較して、高い生息密度、生存率、初期成長を示した。また、上向きの顎形態と大きな眼を持ち、繁殖後の体内残存エネルギーが少なく、体サイズが小さい個体においても競争種が積極的に利用した陸生昆虫の採餌頻度が高かった。
種間競争から解放された個体群は、共存下における実現ニッチと比べて、広い採餌範囲を持つ基本ニッチを利用し、高い初期成長と生存が実現されたと考えられた。種間競争によるストレスからの解放は、繁殖へのエネルギー投資を増加させたと考えられた。さらに、単独域に適応した形態変化である形質解放が起こった可能性が示唆された。