| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-066 (Poster presentation)
飛翔能力の退化は様々な昆虫分類群でみられ、昆虫における収斂進化の代表例である。特に甲虫目では移動能力の低下をもたらし、生態の多様化や種多様化を促進させた。そのため、飛翔能力の退化をもたらした遺伝基盤の解明は、甲虫目の多様化の鍵となった遺伝基盤の解明につながる。飛翔能力の退化は飛翔筋の退化後に翅が退化するため、飛翔能力は翅の退化前の飛翔筋の退化時点で失われる。そのため、飛翔能力退化の遺伝基盤を調べるには飛翔筋が退化途中にある種を調べる必要があるが、飛翔筋の有無は外部形態で判別できないために飛翔筋二型種はあまり知られておらず、研究されてこなかった。
本研究の目的は、オオヒラタシデムシにおける飛翔筋の有無は遺伝的に決まっているかを明らかにすることである。まず、先行研究で野外集団における飛翔筋の有無の比率が偏っていた、北海道、宮城県、山形県の3地点で飛翔筋の有無を調べた。次に、山形県と北海道の集団を用いて、成虫に産卵させて得た幼虫を餌量と密度を変えて飼育し、本種における飛翔筋の有無が遺伝的か表現型可塑性を示すかを調べた。
結果、野外で採集した成虫については、北海道集団は143個体中140個体が飛翔筋をもっていたが、宮城県集団は腐敗により飛翔筋の有無が不明の個体を除く14個体中全個体が飛翔筋をもっておらず、山形県集団は不明個体を除く138個体中117個体が飛翔筋をもっていなかった。餌量と密度を変えた飼育実験では、山形県集団の飛翔筋をもっていない親個体から得た幼虫を50個体飼育し、羽化した19個体全てが飛翔筋をもっていなかった。北海道集団の飛翔筋をもっている親個体から得た幼虫を102個体飼育し、羽化した41個体全てが飛翔筋をもっていた。
本研究より、本種の飛翔筋の有無に表現型可塑性はほとんどない可能性が高く、遺伝的に決まっている割合が高いと考えられる。