| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-067  (Poster presentation)

様々な降水パターンを想定した温帯性蚊の個体群動態の将来予測【A】【O】
Future population dynamics of temperate mosquitoes under various precipitation patterns【A】【O】

*丸山みく, 遠藤大志, 太田俊二(早稲田大学)
*Miku MARUYAMA, Taishi ENDO, Shunji OHTA(Waseda University)

気候変動にともない生物の挙動は変化している。感染症媒介蚊も同様で、個体群動態の変化が感染症の拡大に繋がる可能性があり、蚊の防除や感染リスクの評価のために個体群動態を将来予測することが求められる。そのようなことから、研究事例が少ない温帯性の蚊であるアカイエカ(Culex pipiens)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)について、一般気象要素から毎日の個体数を推定するプロセスベースモデルが開発された(Watanabe et al., 2017; Fukui et al., 2022)。蚊の生育段階を考慮すると、降水の影響を受ける水環境が重要であることが自明であるが、入力する将来の日降水データには不確実性が大きい。そのため蚊の個体群動態を正確に予測するには課題が残る。そこで本研究では、降水パターンの不確実性を考慮することを目的に、4パターンの降水を想定してダウンスケーリングを施したうえで、東京における2種の蚊の個体群動態を予測した。
将来予測に先立ち降水の影響のみを分析するため、降水以外の気象データをベースラインに統一し、各種に対する降水の影響を明らかにする感度実験を行なった。続いて気候モデルMIROC6(Model for Interdisciplinary Research on Climate)の予測値を使用して、SSP(Shared Socioeconomic Pathway)1–2.6およびSSP5–8.5の2081年~2099年における蚊の個体群動態を、それぞれ4通りの降水パターンで予測した。
その結果、アカイエカの個体数は降水頻度の増加にともなって減少した一方、ヒトスジシマカの個体数は降水パターンによる影響をほとんど受けなかった。21世紀末には、アカイエカの個体数は放射強制力が強まるシナリオほど減少し、ヒトスジシマカの個体数は放射強制力が強まるシナリオほど増加すると予測された。
本研究を通して、将来の個体群動態を予測する際に降水の不確実性を考慮することの重要性が示された。この手法は、感染症媒介蚊の個体数動態・媒介感染症の分布の予測へさらなる貢献に繋がるだろう。


日本生態学会