| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-069 (Poster presentation)
淡水性エビ類は熱帯・亜熱帯地域の島嶼河川を中心に広く分布する。一方、寒冷な地域では生息数は少なく、生態の詳細は不明である。また、淡水性両側回遊性のエビ類の分布には海流が影響するとされるが、対馬暖流域での淡水エビ類に関する研究は北日本ではほとんど行われていない。そこで本研究では、対馬暖流域に属し北日本の島嶼を代表する佐渡島において、エビ類の分布と生息環境を解明することを目的とした。また、隠岐諸島 (島後) (以下、隠岐) と比較し、佐渡島におけるエビ類の特性を検討した。
採集調査は、2022年5月から2024年10月に、佐渡島の16河川、隠岐の4河川で手網により行った。佐渡島では、延べ9種・タクサ、3121個体のエビ類が採集され、広域分布種であるヌマエビが島内全域に分布し、南方種であるミゾレヌマエビは西部に多く生息していた。これは、佐渡島の西を流れる対馬暖流によって、主要な分布域である西日本から幼生が輸送されることがあるためと推察される。また、ヒメヌマエビとトゲナシヌマエビが佐渡島で初確認された。
エビ類がどのような環境に生息するかを推定するため、微小生息環境 (流速、水深、植生の有無、溶存酸素、pHなど14項目)と河川の全体の環境を計測した。佐渡島のエビ類は、植生があり、流速の遅い環境に生息していた。しかし、ヌマエビは本州の既報と比較して流速の速い環境に生息する傾向を示した。ミゾレヌマエビは、佐渡島では特定の環境要因への偏りは見られなかったが、隠岐では植生などの限定的な環境に生息する傾向がみられた。これは、島ごとに異なる河川形態と規模に適応した結果である可能性が考えられる。本研究により、淡水エビ類について、佐渡島の河川における分布の詳細や北日本の島嶼における微小生息環境が明らかとなり、佐渡島では本州や他の島嶼と異なる生態を持つ可能性が示唆された。