| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-070 (Poster presentation)
近年、生物の絶滅が進んでおり、特に昆虫の個体数は過去数十年間で40%減少している。絶滅には人為的な要因が大きく関わっており、その中でも都市化は生物の絶滅に大きな影響を与えている。都市化の中でも、車のヘッドライトや街灯による夜間人工光(Artificial Light at Night : ALAN)の増大は光害として知られる環境ストレスである。自然の夜間光の10倍以上の明るさにもなるALANは、生物の体内リズムを撹乱する。一方、近年のLEDへの移行によりALANの光特性が変化している。夜間光の色相の差異は、生物へ異なる影響を与えるという指摘があるものの、ALAN の各色相が繁殖形質といった生態学的に重要な形質に与える影響は未解明な点が多い。本研究では、都市と郊外に生息するオウトウショウジョウバエを用いてALANの波長ごとの影響と都市環境への適応進化を検証した。実験では、白熱電球と蛍光灯、LEDに特徴的な赤色と緑色、青色の単波長LEDと白色LEDを用い、それぞれの夜間照射環境下で都市および郊外由来の幼虫を飼育した。得られたオス成虫について、精子の頭部サイズと精子の生存率、羽化日数、翅の長さを測定した。その結果、羽化日数が青色光条件下で都市集団において遅れることがわかった。翅の長さは郊外集団において赤色光条件下で長くなっていた。精子の頭部サイズは夜間光のない条件と比較して、両集団において青色光条件下で小さくなり、郊外集団において赤色光条件下で小さくなっていた。精子の生存率は夜間光やその波長による影響を受けておらず、翅の長さと精子の頭部サイズは、都市集団では夜間光の影響を受けにくかった。これらの結果から、赤色光と青色光がオウトウショウジョウバエの発育と繁殖に影響を与えていることが示された。特に青色光の多いLEDの普及により昆虫の繁殖や発生への影響が変化すると考えられる。なお、都市集団は色相の影響を受けにくかったことから、都市集団が都市環境に適応して進化していることが示唆された。