| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-071 (Poster presentation)
コイは大型の淡水魚で小動物採食や水質悪化など負の影響が強い。日本では古くから大陸産の個体が放流され野生化している。都市では給餌が行われる場合もあるが、その影響は不明である。この研究では,都市用水路(宿河原用水,二ヶ領用水,玉川上水上流部)において,調査区間や橋ごとの調査地点を設定して目視により魚種と体長(10cmクラス)、個体数を記録し,また給餌行為のセンサスを行った.調査地はいずれも市街地を流れる人工の水路で流量が制御され,水底は平坦で水深は浅く,川幅もほぼ一定,透明度が高く隠れ場所がないため,ほぼ全ての魚類個体を目視できる.取水場所などを通して水源となる多摩川との魚類の移動が可能である.
稚魚や小型魚はたも網や釣りで捕獲し、稚魚は飼育後に同定した。国土交通省の河川環境データベースから関東の河川におけるコイの体長データを抽出し、調査地の体長分布と比較した。また給餌の頻度や餌の内容について給餌者に聞き取りを行った。
その結果、給餌行為は数十年以上前から不特定多数の住民によって行われていたが、放流を行ったり見たとの回答はなかった。観察されたコイは黒色の個体のみで、個体数は給餌のある地点に多く、季節変化はあまりなかった。体長には給餌の有無による地点間の差は見られず季節変化はなかった。魚類全体では体長20㎝以下の個体も多数みられたが、小型個体は全てオイカワやタモロコ類など他種であった。他の河川の体長分布と比較して、都市用水路では30cm 以下のコイ個体が欠落しており、平均49.72cm標準偏差12.46cmの大型個体のみで構成されていた。このような結果と、コイヘルペス病の蔓延以降は放流が禁止されていること、水源の本流に産卵床が設置されコイが繁殖していることから、都市用水路の大型個体のみからなる個体群は、水源となる大河川から大型の個体が給餌地点に回遊して定着することで維持されていると考えた。