| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-072 (Poster presentation)
哺乳類の多くは出生地にメスが留まり,オスが分散する傾向が知られ,多くのコウモリ種でも同様の傾向が観察されている.ヒナコウモリVespertilio sinensisは長距離の飛翔が可能な翼形態を持ち,夏と冬のねぐら間を季節的に移動すると考えられている.しかし,移動または分散パターンが性によって異なるかは不明である.そこで本研究は,両性遺伝(ゲノムワイドSNP)と母系遺伝(mtDNA)のマーカーを用いて遺伝的集団構造を比較することで移動や分散パターンの性差を明らかにすることを目的とした.国内11集団(夏の出産哺育コロニー:6集団,冬眠コロニー:5集団)の計273個体を捕獲し,DNA解析に供した.MIG-seq法を用いたゲノムワイドな一塩基多型(SNP)を取得し,AdmixtureおよびDAPC解析を行った結果,前者はK=1が選ばれ,後者はひとつのまとまったクラスターを形成したことから集団分化はみられなかった.mtDNAを用いた系統解析では2つのクレードに分かれ,一方は北海道で捕獲された個体,もう一方は本州の個体で形成されていた.これらの結果を比較すると,母系遺伝子は北海道または本州内で留まる傾向があるのに対し,核遺伝子では高い遺伝子流動によって集団構造が維持されていた.したがって,オスに偏った分散によって高い遺伝子流動が維持されており,海峡(津軽海峡)を超えて分散していることが示唆された.