| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-074 (Poster presentation)
画一的な群集(個体群)に比べて多様な種(遺伝子型)で構成された群集(個体群)のほうが生産性やその安定性が高いことが知られており、このような効果は多様性効果と呼ばれる。多様性効果の方向性や強さは、その背景で働く種間相互作用や選択圧のパターンに依存して変化することが指摘されている。具体的には、各生物種の有利さに負の頻度依存性がある場合は正の多様性効果が生じ、正の頻度依存性がある場合は負の多様性効果が生じるとされている。しかし、この予測を実際の生物において網羅的に検証した例はない。モデル生物の出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeでは、ガラクトース代謝に関する種内多型が存在する。GAL-ON型はGAL3の恒常発現によりガラクトース代謝を誘導しているためグルコースとガラクトース両方を利用することができる。一方でGAL-OFF型はGAL80の恒常発現によりガラクトース代謝系が不活性化しているため、グルコースのみ利用できる。また、この種内多型においては、培地グルコースやガラクトースの組成に依存して負の頻度依存選択の方向性や強さが変化する可能性が指摘されている。本研究では、さまざまな培地条件かつさまざまな頻度条件で2つの型を共培養することで頻度依存選択と多様性効果の関係を検証した。培養はマイクロプレートリーダーを用いて48時間30℃で振盪させながら行なわれた。実験の結果、48時間後の個体数にもとづき計算された多様性効果(系統の混合により生じる相乗効果)は、培地中のグルコース濃度が低く、ガラクトース濃度が高いときにもっとも大きかった。蛍光標識を用いて2つの型の最終頻度を測定し、各型の適応度を推定したところ、負の頻度依存選択は、グルコース濃度が低く、ガラクトース濃度が高い条件ほど強くなっていた。これらの結果は、集団内で多様性が共存しうる条件と、多様性が個体群の増殖に対して正の影響を与える条件が一致していることを示唆している。