| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-077 (Poster presentation)
ゴカイ科多毛類のコケゴカイSimplisetia erythraeensisは北海道から沖縄県まで分布し、生息地記録も多い干潟の代表種であるが、その生態には不明な部分が多い。九州では本種の寿命は1年とされているが(Ueno et al. 2019)、東北地方や北海道では九州と比べてサイズが大きい個体がみられ、それぞれの地域で寿命が異なる可能性が考えられる。本研究では、宮城県における寿命や繁殖期といった本種の生活史の検討を目的として個体群動態の調査を行った。調査は2024年1月から12月までの1年間、宮城県松島湾櫃ヶ浦干潟で行った。直径15 cmのコアサンプラーで深さ20 cmまでの底質を3回採取し、目合い0.5 mmの篩を用いてふるった残渣からコケゴカイを全て選別して10%ホルマリンで固定した。その後、個体数と体幅を記録し、生息密度と体サイズ組成を算出してコホート解析を行った。
調査の結果より、本種の生息密度は春から夏にかけて低下し、夏から秋にかけて回復する傾向が観察された。コホート解析の結果、1年を通して3つのコホートが認められ、1月から7月にかけて2つのコホート、8月に新規加入のコホートが確認され、9月に1つのコホートの消滅が確認された。加えて、7月に卵を持つ成熟雌が観察されたことから、松島湾個体群の繁殖期は夏、寿命は最大で2年であることが示唆された。松島湾個体群は九州個体群と比較すると成長が遅く、着底から1年経過した時点での平均体幅は九州個体群の最小成熟サイズに達していなかった。松島湾の干潟では冬期に泥中温度が著しく低下するため成長が停滞し、1年間で成熟可能なサイズに達しない個体が多いと考えられた。また、着底後1年のコホートの密度が低下していたことから1年で繁殖する個体の存在が考えられたため、寿命が1年と2年の2パターンの生活史をもつ個体が含まれると推察された。