| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-079  (Poster presentation)

日本海に出現する直達発生型ミズクラゲの遺伝的分化【A】【O】
Genetic divergence of Aurelia coerulea in the Sea of Japan【A】【O】

*高内さつき(北里大学), 三宅裕志(北里大学), 鈴木信雄(金沢大学), 小木曽正造(金沢大学), 益田玲爾(京都大学), 鈴木啓太(京都大学), 小倉良仁(京都大学), 高橋一樹(越前松島水族館)
*Satsuki TAKAUCHI(Kitasato Univ.), Hiroshi MIYAKE(Kitasato Univ.), Nobuo SUZUKI(Kanazawa Univ.), Shouzo OGISO(Kanazawa Univ.), Reiji MASUDA(Kyoto Univ.), Keita SUZUKI(Kyoto Univ.), Yoshihito OGURA(Kyoto Univ.), Kazuki TAKAHASHI(Echizen Matsushima Aquarium)

 ミズクラゲ属の一般的な生活環では、プラヌラは基質に着底後ポリプへ変態する。一方で、日本海側の若狭湾から能登半島にのみ低水温期に、通常よりも大型のプラヌラが着底後エフィラを形成する「直達発生」を行う(三宅ほか 2019, Suzuki et al. 2019, Yasuda 1975)。直達発生型は通常型のAurelia coeruleaと同種であるが(Suzuki et al. 2019)、なぜ一部の地域に出現するミズクラゲのみ直達発生するのかについては未だ言及されていない。そこで本研究では、発生型間の遺伝的差異に注目し、直達発生型集団の形成過程を考察することを目的とした。
 サンプルは、直達発生型の2地点(能登、若狭湾)と通常型の7地点(小樽、青森、山形、岩手、東京湾、大阪湾、下関)で採集された。mtDNAのCOⅠ領域のハプロタイプ解析を行い、集団の拡大および集団形成年代を推定した。また、直達発生型の能登、通常型の小樽、青森、東京湾について各10個体を対象にMIG-seq法によりSNPsを検出し、STRUCTURE解析により遺伝的集団構造を調査した。
 ハプロタイプ解析では、発生型に関わらず各集団間でハプロタイプを共有しており、直達発生型の遺伝的分化の程度は低いと考えられた。中立性検定では、直達発生型集団は有意な負の値を示し集団が拡大していることが示唆され、τ値による推定集団形成年代は最終氷期以前であった。また、直達発生型は他地域の個体と遺伝的集団構造に違いがみられた。これらの結果から、最終氷期に日本海で生残した個体が水温低下に適応しプラヌラが大型化したことで直達発生できるようになり、後氷期の海流の流入により各地域の集団は遺伝子交流があると考えられた。現在は、低水温期に限られた海域で繁殖を行うため、最終氷期に獲得した形質が日本海側の個体群に特有の形質となり維持されていると考えられた。


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